漫画家の端くれとして、ずっと関わらずにいるのも無責任かな…と思い書いておきます。東京都の青少年健全育成条例改正案について。
まずこの条例の内容を簡単にまとめます。端的に言うと「漫画やアニメに出てくる人が性犯罪などの犯罪を犯したら取り締まっちゃうぞ!」というものです。
もう少し補足すると、そういう犯罪めいた物を描いた漫画やアニメは子どもに悪い影響を与えるからけしからん…従って18歳未満への販売を禁止せよ!…と言う内容なのです。
そして、それに対する僕の個人的な見解。
僕自身はエロ漫画は読みませんし、自分で描くこともないでしょう。それでも、僕はこの都の条例に反対です。
犯罪犯す人は漫画見ようと文学作品を見ようと雲一つ無い青い空を見ようと、犯罪犯します。トリガーが何か…なんてそれほど重要じゃないです。
幼女が好きな人は漫画やアニメが無くても幼女が好きです。人を傷つけるのが好きな人は何があっても人に危害を加えます(サディストとかその類)。そういうもんです。
問題はそういった性質を持った人たちがこの世の中でどのように生きていくべきなのかを探ることであって、けしてそれらを無かったことにしたり、押さえつけたり、普通とは違う異常な物として排除することではないと思うのです。
バトルを主体とした子ども向けヒーロー番組を見た子どもが乱暴になった、なんて言うのはよく聞く話。表現物が人に影響を与えるというのは当たり前 です。性を扱った漫画もしかり。それがガス抜きとなって犯罪が減る場合もあるだろうし、犯罪を助長してむしろ性犯罪が増えることもあるでしょう。
でもそれは漫画だけに限らない。そういうのがイヤなら、子どもを檻にでも閉じ込めておくしかない。
子どもたちは様々なものに触れ影響を受けながら成長していきます。その触れるべき物の順番は子どもの意思を尊重しつつも、親をはじめとした大人が手助けしつつ考えていけばいいことであって、都の条例なんかに任せておくべき物ではないと思います。
例えば我が家には二歳の息子がいますが、今のうちから本棚のレイアウトを息子用に変えてあります。下段には児童漫画。中段には少年漫画。そして上段には青年漫画。将来漫画が読めるようになったら、成長に合わせて取ってくれても良いし文字通り「背伸びして」ちょっと上の物を読んでもらったってかまいません。いわゆる簡単な「ゾーニング」です。…そしてこんな事は、方法は違えど一般的な本屋だったらたいていやってることでもあります。
ただ、確かに今の漫画雑誌を見ると「もうちょっと分けようよ」と思わなくもないです。普通の少年・少女漫画に混じってどう見てもエロ漫画にしか見えないような漫画もあったりする。これでは「規制しろ!」と言われても「ソウデスネ」としか言えない。
そういった批判をかわすためには、よりいっそうの「雑誌としてのカラー」の確立が必要なのかも知れません。いや、昨今流行の兆しを見せている電子書籍であれば、雑誌という形ではなく作品単位で売買が出来るわけなので、ゾーニングもより簡単です。ユーザー登録時に入力した購読者の年齢に合わせて買える作品リストを変えればいい。簡単です(賛否はあるでしょうが)。
今必要とされているのは都の条例なんかじゃありません。もうちょっとちゃんとした、大人の知恵です。
「都知事たちは漫画に理解がないから駄目だ」と言う人たち。「エロ漫画好きのオタクどもには何を言ったって無駄だ」と言う人たち。反目しあい相手を排除しようとする構図はいじめや差別とそっくりです。そんな姿を子どもに見せることの方がよっぽど害があるようにも思えます。
子どもたちのことを考えるより先に、おそらくそういった我々が、もっと「大人」にならないといけないのかも知れません。