2012年12月末、セルシスよりCLIP STUDIO PAINTの高機能版「EX」が発売となりました。こちらは九月にすでに発売済みの「PRO」版に機能を追加した高機能版です。
名目的には漫画執筆ソフトの業界標準「COMIC STUDIO」の後継……と言うことになっていますが、実際はどうなんでしょう。カラー及びモノクロの使い勝手を簡単に追っていきたいと思います。まず今回は、カラーについてを中心に!
- ■略称は?
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CLIP STUDIO PAINT EX。いかにも名前が長いです。普通なら「クリスタ」と略してしまいそうですが、実はCLIP STUDIOと言う別ソフトが存在しており、そのままですとそれを指すことになってしまう。さらにPAINT以外にもACTIONとかCOORDINATEとか、別ソフトがあったりして、さらにややこしい。
ですので今までは「クリスペ」「クリペ」など、なんとかして「PAINT」を含んだ略称を定着させようという動きがありましたが、イマイチ盛り上がりませんでした。
そして結局、知り合いの作家さんがセルシスさんに直接伺ったところ「略称はクリスタ」という要望をいただいたようです。なるほど…!
そんなわけで略称は「クリスタ」に決定したようですが、それでも別ソフトの「CLIP STUDIO」と紛らわしい……と言う点は解消されていません。
ですので、通常は「クリスタ」で、より正確に伝えたい場合は「クリスタのペイント」などと、あとに繋げていく……と言うのがわかりやすいかもしれません。あるいは「PRO」「EX」は今のところPAINTにしかありませんので、「クリスタPRO」「クリスタEX」という略称でも良いのかも。とりあえず当ブログでもそのような略称で統一したいと思います。 - ●年賀状メイキング~カラーを描く
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クリスタにはCOMIC STUDIO(以下コミスタ)同様の「下描きレイヤー」という機能が備わっています。これは通常のレイヤー同様に描画出来ますが、属性としてはあくまで「下描き」ですので、印刷設定で「下描きを印刷しない」というような設定が可能です。
具体的な使用方法は、レイヤーサムネイルを右クリックして表示されるメニューから「下描きレイヤーに設定」を選ぶ事。これだと多少面倒ですが、クリスタには「オートアクション」という「作業工程を記憶させておくことが出来る機能」が付いており、標準で「下描きレイヤーの作成」なるアクションが設定されています。なので、これを使うと便利かもしれません。
そんなこんなで下描き完成(左)。ちなみに実際は黒で描いているのですが、レイヤーカラーを水色にして表示してあるから目に優しい。このあたりもコミスタから引き継がれてきた機能ですね。便利です。
さらにそれを下敷きにして鉛筆ツールで線画も完成させました(右)。
- ●レイヤーの構成
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拙著「こんどこそ!レイヤーの使い方が本当にわかる本」を読んでいただけた方ならわかるかと思うのですが、僕は様々なレイヤー構成で着色を進めていきます。クリッピングのみで構成したり、選択範囲を多用したり。
例えばSAIは選択範囲に弱いけどソフト自体が軽いのでレイヤーを増やしても大丈夫。なので結果的に「パーツごとにベースカラー塗ったレイヤーを作りその上にクリッピングして影やハイライトなどを入れていく」というクリッピングがメインの着色方法が多くなる。逆にPhotoshopは選択範囲に強く多機能。結果、選択範囲(及びレイヤーマスク)をメインとした、レイヤー数を抑えた着色方法にすることが多いです。
それを踏まえてクリスタを見てみると…比較的Photoshop寄りのツクリであることがわかります。もちろんSAI風にも使えますが、高機能なソフトですのでおそらくSAIのように200も300もレイヤーを重ねたら動かなくなりそう。(試したわけでは無いですが、今度時間が出来たら試してみます)そんなわけで僕は今回、クリッピングを使わずに選択範囲を活用する方向で着色をすることに決めました。
- ●ベースカラーを塗る
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コミスタ、及びイラスタを使っていた人であればお馴染みの機能に「隙間閉じ」と「領域を拡縮」があります。それぞれ、「ちょっとくらい線画に隙間が空いていても、空いていない物として色を塗ってくれる機能」と「通常塗る範囲より数ピクセル、指定した分だけ外側に領域を増やして塗ってくれる機能」です。
PhotoshopにもSAIにも無いこの機能は非常に便利!どうしてもベタベタと塗り絵風に塗ってしまって手間のかかるSAI。隙間を一生懸命閉じながら塗っていかなければいけないPhotoshop。その二つを使うのが嫌になるくらいサクサクとベースカラーを塗ることが出来ます。
- ●ベースカラーを「参照レイヤーに設定」
クリスタの自動選択ツールにはPhotoshop同様「隣接ピクセルをたどる」というオプションがあります。これがオンの場合は閉じられた部分のみ選択され、オフの場合はクリックした色を画面内から全て探し出して選択してくれます。これが便利。
なので今回も肌色を塗った後にその肌色を「隣接ピクセルをたどる」オプションをオフにした状態でクリック。すると画面全部の肌色が選択出来ます。さらにこのベースカラーレイヤーを「参照レイヤーに設定」しておけば、影レイヤーやハイライトレイヤー上でクリックしたとしても、参照レイヤーであるベースカラーレイヤーを元にして選択範囲を作ってくれます。
ちなみに「参照レイヤー」はSAIにも搭載されている機能ではありますが、残念ながらSAIには「隣接ピクセルをたどる」というオプションがありません。なので、そこまで含めるとクリスタに軍配が上がりますね。- ●描画系ツール
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今回は比較的デジタル風の着色を目指しましたので、使ったのは「筆」ではなく「エアブラシ」ツールです。筆と比べると無機質ですが、こういう絵柄には合ってます。
また、くっきりとした影にはペンツールも使ってます。
エアブラシツールはどのグラフィックソフトにもありますし、補正の効くペンもSAIに備わっています。そんなこんなでこの部分において「クリスタならでは!」という機能性はあまり感じられませんが、普通のことが普通に出来るというのはやはり嬉しいですね。 - ●色調補正レイヤー
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Photoshopにもある調整レイヤーに相当する機能が、クリスタにもあります。それがこの色調補正レイヤー。
例えば「肌色がちょっとイメージと違うなぁ」と思った場合、肌色を選択した後にレイヤーパレットのミニメニューの「新規色調補正レイヤー」の中から、任意の項目を選びます。「トーンカーブ」や「色相・彩度・明度」などが便利。
Photoshopでは当たり前の機能なのですが、これをクリスタ単体で出来るってのはでかいです。ホントのホントに最終的な調整以外はPhotoshopを使わなくても良さそうです。 - ●書き出し
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最後の最後に、書き出しを試してみます。今までは「プロファイル」という概念自体がありませんでしたのでPhotoshopに持っていくと色が変わってしまったりなんだり困ることも多かったのですが、クリスタのバージョン1.1.0以降でそれも解消!
まず「プレビュー」と言う機能が搭載されて、各プロファイルでの見え方の違いがプレビューできるようになりました。具体的には「Web用であればsRGB」「印刷用であればAdobeRGB」くらいで覚えておけば大丈夫でしょう。また、CMYKのプロファイルも選べますので、場合によっては「Japan Color 2001 Coated」などを選んでも良いでしょう(これだと一般的な印刷物に最も近い見た目になりますが、使える色は少なくなりますので注意)実際に試してみたところ、プロファイルを埋め込んで書き出した場合、Photoshopでもクリスタと全く同じ色でファイルを開くことが出来ました。これは良いなぁー。
- ●カラー機能まとめ
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改めて思うのは、コミスタやイラスタやSAI…そしてPhotoshopから「良い機能」を引っぱってきたソフトだなぁ、ということ。正直この機能がこの値段(EXは22,000円、PROならなんと5,000円!)ってのは信じられないですよ。初心者から中級者まではクリスタPROで十分。上級者もクリスタEXにはかなり満足出来そう。
ただやはりPhotoshopと比べるとフィルタの数が少ない点などを見ると「これ一本で全部出来る」とは言えなさそうです。なのでプロのイラストレーターであればクリスタPRO+Photoshop、マンガ家であればクリスタEX+Photoshopがベストかも。
別にセルシスの回し者というわけでは無いですが、パソコンで絵を描く人たちには、強くオススメしたいソフトです。 - ●モノクロとEX専用の機能
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今回は基本機能のうち、他のソフトにはあまりないクリスタ独自の機能を中心に解説してみました。が、さすがに一回では解説しきれません。モノクロ描画に関してとEX専用の機能についてはまた次回解説したいと思います!